江戸指物専門店の常心亭は、地下鉄有楽町線「江戸川橋駅」徒歩3分です。

about

江戸指物とは

私は、矢尾板良雄と申します。常心亭という江戸指物専門店を経営しています。
江戸指物を取り扱うようになって約40年が経ちます。その間、ずっと江戸指物のことを考えてきました。最近、江戸指物を説明しようとすればするほど、江戸指物本体からかけ離れていくような気がしてなりません。そこで、どれほどかけ離れていくものか、私の40年のすべてをかけて書き記してみようと思います。(江戸指物のほとんどの情報は、江戸指物師戸田敏夫氏に伺ったものであることを付記しておきます)
皆様、もし興味をお持ちいただけましたら、おつきあいくださいませ。

江戸指物とは何か?

「家具」と呼ばれる木工品のほとんどは、板と板を四角く組んで造られる。
その中で「和家具」と呼ばれるものは、日本の暮らしの中から生まれてきた家具である。その中に「江戸指物」と呼ばれるものがある。

特徴は、次の①~⑤である。

1~5

 まず①であるが、江戸指物師が使う木材は、実に様々なものがある。ただ一つ、「島桑」材だけは、鉋もノミも特別に調整した専用の道具を使う。「島桑」材だけは別格の扱いなのである。また、現在ではほとんどいなくなったが、「島桑」を磨く時のみ、「木賊」の後に「椋の葉」を使って磨くことがある。ただ、木賊も椋の葉も、使い方が難しく、熟練を要する。だが、紙ヤスリと木賊と椋の葉で磨き面を比べてみると、紙ヤスリは艶が全く出ない、木賊は艶が出るが毛筋のような細かい線が出てしまう。それでも紙ヤスリよりは漆の艶の乗りがいいそうだ。椋の葉となると、より艶が出てよけいな線が全く出ず、漆の艶の乗りが全く違うそうである。たかが葉っぱと思っていたが、実際に違いを目の当たりにすると、職人の研究心・どん欲さに驚かされる。木賊に「張り木賊」といって小さな板に貼り付けて使うものがあるが、これは平らな面に使うのではなく、たとえば銀杏面の小さな隙間を直す時などに使うものである。木賊は本来は平につぶして指で押して面を磨く。椋の葉は水に戻してよく絞って指で押して使う。それもこれも、要は仕上げがどれほど美しい艶を生み出すか、ということなのである。テカテカであればいいのではない、「美しい艶」なのである。

 ②についてであるが、金釘や木ネジを使わないのはただ釘を節約したわけではない。おそらく当時は釘も手づくりであり、高かっただろう。それに、細くて小さい釘が作れなかっただろう。釘は贅沢品であったのだ。そのおかげで板を組み合わせるために様々な工夫が生み出された。ただ、この工夫は世界中で同じような工夫が行われていたようで、江戸指物だけの技法ではないと思われる。ただ、江戸指物師はどのくらいの固さで組み合わせるのがいいのか、どこをゆるめてやればうまくいくのか、長年の経験でホゾの場所・木の堅さなどで組み合わせる精度を変える。機械のように同じ固さで彫っているわけではないのである。そもそも、ノミは片刃なのでまっすぐ彫れるわけではない。刃のついている方へほんの少し曲がってゆくのである。その性質を利用して、糊の溜まる隙間をうまく造るのである。ホゾとホゾは、きつければ板は割れるし。柔らかい木ならば、ホゾ同士が削りあってめくれてしまう。緩ければ抜ける。また、職人はホゾのどちら側をきつくするか考えている。これは、板の狂いの方向とも関係がある。

 ③について、木口とは、板を木が生えているように立ててみた時に、上と下の面を木口という。木口は、木の導管の穴が見えるところで、水分を吸いやすく、木を狂わす原因の一つである。また木口は、塗装するとそこだけ色が濃くでてしまう。塗料も吸い込みやすいからである。これを隠すことにより、木を狂いにくくし、色むらをなくし、杢の流れを遮断しないですむ。できあがりもきれいであることはいうまでもなかろう。木口を隠す技術もいろいろある。それぞれ涙ぐましい工夫である。江戸指物は、杢を美しく見せるために、これほどの工夫をするのである。杢というものは、自然が創り出したものである。一つ一つ違うのである。その杢をいろいろに組み合わせて江戸指物という小さな自然美を造り上げるのである。

 ④は、全体のバランスとはつまり部分と全体との調和であり、メリハリとは緊張感のある対比である。表-4に主なものを上げておいた。これを「キレ」と言っていいと思うが、江戸指物師戸田敏夫氏はそれを「品格」と呼んだ。見た目で感じるところなので、見る人によって感じ方は違うのだろうが、ここにこそ江戸指物の真骨頂がある。たとえば、戸田敏夫氏の造った衝立は、すべての部材の厚みが違う。板一枚、棒一本がそれぞれ厚みが異なっているのである。これを組み合わせて衝立となる時、全く違和感がない。どう見ても違うとは思えない。ただ他のものと違っているのはその重厚感であった。そして、それを買ったお客様は厚みがそれぞれ違うことを全く知らない。「それでいいんですよ」と彼は言う。「江戸指物のすべてを知って頂かなくてもいいんですよ。ただ出来たものを気に入っていただいて、創った職人を好きになっていただければ……それで十分なんです。」

 ⑤の薄化粧とは、板や棒のままでも使い勝手は変わらないが、それを少し加工して、柔らかみ・丸み・立体感・重厚感・軽妙感・艶・粋などをほんの少し付け加えることを言う。けして厚化粧にしてはならない。それと、杢を十分に生かすためには、それを覆ってしまってはならない。そこで必然的に角や隅を加工することになる。たとえば「テリ」一つとってみても、職人一人一人で感じが違う。角度・長さも違うのである。これも職人の感性で違ってくるのである。当然出来上がりもまるで違うのである。だからこそ面白い。皆さんはご自分の気に入った職人を捜し当てればいいのである。出来ればご自分もいろいろな美術館などを拝観しながら感性を磨かれるのが理想だと思うが……。戸田氏は、月最低1回は美術館巡りを欠かさないそうである。

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